この時期になると否応無く訪れるものがある。アレルギーか?それとも冬支度か?違う。あいつらは、会社や病院、保育園まで、現在ではどこでも現れる。中学生の職場体験である。
自分の中学校の時分は職場体験などはなかった。数人の班に分かれて工場などに突撃訪問をするくらいである。度胸試しを学校が推進していたのだ。飛び込みセールスの練習か?環境は昔のほうが熾烈である。自分の時は、工場地帯にある「増えるわかめちゃん」を作っている「RIKEN」に行った覚えがある。今は学校がアポをとって訪問していいか聞いているので、お膳立ては最初からできている。今の中学生は職場体験も温室育ちだ。いや昔が熾烈すぎたのだ。
体験先の病院は、中学の先生にも生徒にも人気がある。みんなにこにこして職場体験。といってもいきなり病院のすべてを見せる訳にはいかない。かなりの時間を会議室の講義に費やされることとなる。まあ、未来の医師と看護師でもいればいいが、なかなかそのレベルの中学生には当たらない。ミスマッチである。近くの公立中学である。
近くの保育園に病院の院内保育所を委託している。医師や看護師の子供を預けるわけである。宿泊はないが夜までの保育はざらだ。院内保育所の方ではなく、普通の保育所として中学から生徒の受け入れを行っている。保育所も保育士不足だ。よしよし、たくさん経験して将来は保育士になってほしいなあ、と思っている。たった1日間の職場体験であるが、病院よりは充実している。子供たちに接することができるからだ。患者と接させるわけにはいかないからな。
保育所の先生と話をしたところ、さらに系列の介護施設でも職場体験の受け入れを行っている。そちらの方が職員の状況はかなりキツい。介護の職場は保育所よりも人材難である。中学生もウエルカムであるかというとそうではない。人材難のため、中学生を相手する職員が足りない。入所者さんの対応する職員もいないのではなおさらである。
医療も保育も介護もどれも人材難である。一部ブラック企業と呼ばれるほどの職場環境のため、あまりどころか全く応募者が増えない。それどころか、この業界から離れてしまう傾向がある。せっかく看護士になっても数年で別の仕事に就いてしまう。大学を卒業後、せっかく保育士として働きだしたのに結婚とともに辞めてしまう。特に、介護職など、養成のための専門学校さえつぶれている時代。認知症の老人の数は増えているのに担い手は減る一方である。この原因はずばり給与の低さである。負のスパイラルはどこまで続くのであろうか。
数年前の不況の時代に失業者の受け皿として介護業界に白羽の矢が立った。失業しているのだから給料が低くてもなり手はいるだろうと。しかし思うように増えない。そりゃそうだ。しろうとが出来る仕事ではない。専門性が高く高度な技術が必要になる医療と同等の対応が必要な業種である。人の生き死にが関係してくる非常にシビアな世界である。そんな業種が受け皿なんて、なめられたものである。需要と供給がこんなにもアンバランスな業界はないかもしれない。政府が言う求人倍率の上昇分はこの業界の分で持っているのだと思う。政府の数字のマジックのために利用されたのである。誰でもできる仕事だから給料が安い?だれでもできるのならもっと求職者が増えてもいいはずだが。給料が安くても就業しようという人はいる。しかし未来が見えない限り長続きはしない。
職場体験を経て、医療保育介護業界に少しでも興味を持ってくれれば御の字だが、良く聞くとそうも行かなそうだ。てっきりその学区にある中学校の生徒だと思って聞いていたが、介護施設に来たのは、地元の私立中学校の生徒さん達。お世辞では無いが、どう考えても介護業界に来てくれそうもない。生徒に将来就きたい職業を聞いてみたところ、医者とか言っていたそうだ。さもあらん。こちらでもミスマッチが起きていた。よく考えてくれ、学校の先生。