夫婦とふたごとネコ一匹

家族で起きた事件(?)を基に四コマ漫画を描いています。

あの娘の家が取り壊される

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 東日本大震災の後の話。近所で殺人事件があった。殺したのは子供。殺されたのはその母親。おばあさんとの3人暮らしであった。予兆はあったのかもしれない。子供といってもすでに成人を迎えていただろう。働かない、家へ引きこもっている子供の態度を注意したことで口論となり、衝動的に近くにあった包丁で刺したという。事件現場は私の家のすぐ近くだが、夕方のテレビで流れた事件のニュースの情報と漏れ聞こえてくる噂ぐらいしか情報は伝わってこなかった。しかし、事件は事件である。殺人事件なんて初めて遭遇したわけだが、いまいちピンとこなかった。病院では死は間近なもの。それより震災で多くの人が死んだ。多くの死体を見た。一人ぐらいどうってことは無い。意識は殺人事件そのものではなく、その家族の事に向かっていた。

 

 日曜日の昼下がり、家で家族と過ごしている時事件は起きた。外から悲鳴が聞こえる。近所の人たちが道路に出ている。誰かを探している。何が起きたのかはわからない。とにかく外には出ていけないと思った。警察はすぐに来て誰かを探している。私の家にあった自転車(外から見えるところにあった)を貸してほしいと近所のひとから依頼があった。快諾したが、自分から探しに行くようなことはしなかった。

 

 誰かが捕まったらしい。殺された人の子供で、もう成人している。殺されたのは私が子供のころから知っている女の人だ。年齢は私よりちょっと下。早くにどこかに嫁に行っていたがいつしか実家である近所に子供と一緒に帰ってきていた。帰ってきた理由は聞けない。誰しもが脛に傷を持つ現代だ。

 

 その娘は酒屋と薬局を営んでいる家のひとり娘。近所にアパートを1棟持っていた。私はそこらに落ちていたリターナブル瓶を集めてせっせとその娘の店に運んではジュースに換えて飲んでいた。あちらは金持ち、こちらは貧乏。近所に住んでいたのに住むところが違っていることは子供ながらにもわかった。母親似で美人。あの娘を見るのは決まって横顔で、正面から見る機会はついぞなかった。

 

 私が県外へ就職した後の話。酒屋と薬局を営んでいたその娘の親は、いつしかその店をたたんで近くのショッピングセンターに店を移した。もう今の店では発展は望めないと思ったのだろうか。今まではその店を中心にして商店街が発展していたのにも関わらず核になる店舗がなくなれば商店街なんてすぐに寂れてしまう。いまでは商店街があった形跡すら残っていない。

 

 近くのショッピングセンターに店を移したが突然ショッピングセンターが撤退することになった。親会社の倒産により店舗の維持ができなくなってしまった。その娘の店もなくなってしまった。その後の動きは判然としないが、娘が子供とともに帰ってきて実家で喫茶店を始めたが、寂れた商店街で喫茶店を開いても繁盛するわけでもなくすぐに店を閉めてしまう。酒屋と薬局を営んでいた家を売り払い、持っていたアパートの1階をリフォームして住み始めた。最後には2階部分も2世帯住宅としてリフォームしていた。事件はその2階部分で起きた。懲役刑で服役していた子供もすでに刑期を終えているはず。しかし。その子の祖母共々姿を見ることはなかった。

 

 震災後、取り壊された家も多くあったが現在では沈静化、高齢化し、いつもしんと静まり返っていたこの地区に住宅を取り壊す音。目立たないわけがない。一瞬のうちに過去がフラッシュバックする。近所のだれもが”あの家”が壊されていると思っているだろう。私と同じように。

 

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