年末から新年にかけて島崎藤村の「破壊」を読む。時間の合間を縫って読み進んだために時間がかかった。もとは病院の図書館に埃をかぶってひっそりと佇んでいた岩波書店刊の「破戒」。文庫本明治の時代にこの題材の小説を自費出版という形ではあれ出せたというのはまさに「破戒」的行為であったろう。ラストに主人公がアメリカの開拓に旅立つのはある種の「逃げ」とも取れなくもないが、あの当時の情勢を鑑みれば致し方ない。これが解放運動に参加したり、天皇制破壊などという展開になれば藤村はその後不遇をかこつことにもなり、また藤村にもその気はさらさらなかっただろう。当時としては現状からの逃避が「正解」であったのだ。
小説「破戒」よりも島崎藤村その人の人生こそ破戒とも言える。就職先である明治女学院の生徒に手を出し教師をクビ。34歳に「破戒」を自主出版するが、小説「破戒」を出版する前後に長女、次女、三女を亡くす。長男次男三男を儲け、四女が生まれた時に妻を亡くす。その後手伝いに来ていた姪のこま子との間に子供ができるが、一人フランスへ逃げる。3年後帰国するが、こま子との関係が再燃。しかし、56歳の時に24歳年下の静子と再婚。57歳の時にやっと代表作「夜明け前」を出版。教育者でもありクリスチャンでもあった島崎は実はヤンチャな「破戒者」だったのだ。
この小説の岩波文庫版は本編はともかく、野間宏氏の巻末解説「破戒について」も秀逸である。「破戒」の日本リアリズム文学が始まり、被差別者の歴史と島崎藤村の葛藤が説明されている。特に島崎は「破戒」の改訂版を出版しているが、改訂版の出版こそ島崎藤村が心に内在している差別意識の表れと看破する。
学生時代の読書感想文といえば解説を丸写しをしても教師から何となくOKをもらえるような感じであったが、「破戒」の読書感想文を解説に求めようとするといろいろな意味で大変である。なぜかは是非「破戒」の解説を読んでみてから判断してみてくれ。本屋で立ち読みをしても10分ほどで読むことができるから。私的には本文より解説文を読む方がよっぽど有意義な時間だった。しかしそれも本文を読んだから言える事。