夫婦とふたごとネコ一匹

家族で起きた事件(?)を基に四コマ漫画を描いています。

「動物農場」とその背景にあるものの普遍性

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 政治を全面に出した小説はあまり好きではない。こう言った小説は必ずと言っていいほど現在の政治情勢の揶揄だったり風刺だったり。そうすると時代を経ると共に瞬く間に陳腐化する。ブームの時はいいがブームを過ぎると誰も読まなくなる。ジョージオーウエルの超有名な小説に「1984年」があるが、この小説はそう言った分野の小説だ。私の好きなディストピア小説ではあるが、教条的であり押し付けがましい。ラストに主人公が思想的に転向した後で死刑になるとか、思考を制限するがために政府が言葉そのものを極端に簡略化する「ニュースピーク」なる発想も唸るものがあるが、発想は面白いがただそれだけである。ディストピア世界に必ずある発想であるセックスに対する極端なる忌避(「大いなる新世界」「ローガンの逃亡」では真反対のフリーセックスの世界だが)は「1984年」にも取り上げられている。「ビッグブラザーはいつもあなたを見ている」はオセアニア国(「1984年」に出てくる国の名前)の監視社会を表している言葉だが、この21世紀に監視社会がどうこう言われてもすでに監視社会はそこまで来ている。ビッグブラザーという固有名詞はないまでもそう言った存在が実際に私たちを見ている疑いがある。風刺は陳腐化が早い。現実の方がよっぽどディストピアだ。

 

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

 

 

 

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「アニマルファーム  動物農場」物語に内包する普遍性

 

 同じジョージオーウエルの「動物農場」。前はこの小説も好きではなかった。

 学生時代に一度読んだ。その当時の政治情勢がそうさせるのかと思えるが、やはり「動物農場」イコールある国の政治体制の風刺であるという体で読み進んだために面白くはあるがやはり発想がその国の政治体制を確認しているだけという読み込み方しかできなかった。ははーん、この豚はレーニンでありスターリンでありトハチェフスキー、隣の農場はヨーロッパ諸国の話だな、迫害された豚はトロツキーの事か、など、読んでいる時に反映である登場人物、政治体制が頭に浮かんで楽しくない。しかしながら読んだ当時、ソ連崩壊で一躍そう言った類の小説が自分の中で流行った影響もありまあ話のタネに読んだだけである。ソ連の政治体制を揶揄しただけの寓話、ソ連が崩壊した後に至ってはノスタルジアでしかありえない、そういう認識だったのだが。

 

 今回読んだ版は開高健氏の翻訳による「動物農場」。実は開高氏の解説というか論文が載っているので目にとまったわけだが、学生の時に読んだ時とは印象と認識が180度変わった。実はジョージオーウエルは社会主義者であり、特段「動物農場」をソ連の体制を揶揄したわけではない。オーウエル本人も反共主義者だと思われているのを迷惑がっていたというエピソードがある。では、「動物農場」に込めたジョージオーウエルの言いたかったこととは。

 

 全体主義が誕生、醸成そして完成へ至る過程の普遍性

 

ではないだろうか。

 

  「動物農場」に出てくる吐き気を催すキャラクター達

  動物農場を読み直してわかったことだが独裁者である豚のナポレオンのキャラには吐き気を催した。小説を読んで反吐が出そうになったのは久しぶりだ。それほど豚が独裁者になる過程の言動が、許せないほど憎たらしい。それだからこそ他のキャラクタをある種の哀惜を持って見ることができたのかもしれない。

  

  1.  豚1   預言者であり思想家 メイジャー爺
  2.  豚2   独裁体制の頂点に立つ ナポレオン
  3.  豚3   独裁体制下の政敵 独裁者に失脚させられる スノーボール
  4.  豚4   独裁者のちょうちん持ちでありスポークスマン スクイーラー
  5.  犬    独裁者を守る警察であり、敵対者を粛清する 9匹の犬
  6.  羊    独裁者の思想を疑いもせず声を出して喧伝する
  7.  馬    独裁者に盲従し率先して作業を行う労働者 ボクサー 
  8.  めんどり 独裁者から搾取され続ける労働者 
  9.  ロバ   何事も厭世的に考える。ベンジャミン
  10.  雌馬   仕事はしないが要求は多い 最後には国から逃げ出す モリー
  11.  カラス  夢や希望を吹聴して回るが、いざという時は逃げ出す モーゼ 
  12.  鳩    情報屋 他国を偵察、自国の素晴らしさを宣伝する
  13.  野生ネズミ  独裁体制に従わないかといって抵抗もしない。
  14. その他の家畜 ねこ 牡牛 めんどり あひる か弱き盲従者

 

 上記のような人は自分の周りに存在しないだろうか。スターリンヒトラーを想定しなくても身近に豚3、犬、カラスなどは掃いて捨てるほど存在するだろう。(私としてはカラスが一番許せない)

 社会で独裁的な振るまいをする人。太鼓持ち。独裁者に反発して追われる人。疑わずに付き従う真面目に働き、過労死してしまう人。何もせずに逃げ出す人。噂好き。その他大勢。偉大なる創業者の下経営されているブラック企業の2代目争いの中で翻弄される社員達といえば理解しやすい。

 

 ひょっとしてオーウエルは、全体主義へ至る普遍性を世間に知らしめるためにあえてソ連という国が形成され、ソ連の中の全体主義が完成されるまでの過程に似せて物語を作り出し、反ソ連の流れに乗じて世に送り込んだのではないか。確かに出版された時は反ソ連の風が吹いていたが、ソ連や付随する思想的な側面が無くなれば全体主義全体だけではなくあらゆる社会的な圧力への警告と読むことができる。オーウエルにそれだけの自覚があったとは思えないが、現代においては結果的にはそう読むことができるのではないか。寓話という形式は取っているが、背景に流れる思想は陳腐化することなくいつ読んでも感嘆させられるものとなるだろう。ぜひ一読願いたい1冊である。表紙のデザインもすばらしい。ジャケ買いにもってこいだ。

 

 

 

 

 

厭世的で皮肉屋の私のタイプは、やっぱりロバかな。